春待月の一夜のこと
立ち上がって今にも詰め寄りそうな島田は必死で説明を試みている岡嶋に任せるとして、真帆は田辺に向き直る。


「知り合いかって訊かれて迷ったのは、知り合いって言ってもいいのかなって迷っただけであって、言いづらい関係だからとかそういうのじゃないから」

「へー、そう」


びっくりするくらい信じていないのがよくわかる返事である。


「私が働いてるお店に、お客さんとして来てくれたの。だから、知り合いって言えば知り合いだけど、もっと言うとお客さんと店員ってこと、わかった?」


ふーん……と最初は微妙な相槌だった田辺だが、岡嶋が大方同じような説明を必死で島田にしているのを聞いて、やがて納得したように頷いた。


「じゃあ、さっきのポテトサラダも岡嶋さんはそのお店で食べたってこと?」

「そういうこと。私が個人的に作ってあげたわけじゃないから」


向かいの席から、「ほらあの人、田中さんもああ言ってるだろ!」と岡嶋の必死な声が聞こえてくる。いつの間にか島田は席に腰を下ろしているので、さっきよりは落ち着いたようだ。
< 394 / 409 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop