春待月の一夜のこと
物凄く言い方が鬱陶しいし、わざとらしい表情に腹が立つけれど、言っていることが正しいせいで何も言い返せない。
そして言い返せないことが、また腹立たしい。


「そういうことだから、もっとゆっくりしていきなよ。思い出話に花を咲かせるでもいいし、あっ、俺達の将来について話し合うのでもいいね」

「……前者については、田辺くんと花を咲かせたい思い出話なんかないし、後者については、それより先に話し合うべきことがあるでしょって、何回も何回も何回も何回も何回も言ってる!」

「そんなに何回も言ってたっけ?」


きょとんとした顔がまたムカつく。
埒が明かないが、濡れた服で外に出て風邪を引くわけにもいかないので、真帆は諦めて大きなため息と共に椅子に座り直す。
それを見て田辺は満足そうに笑うと、「あっ!」と思い出したような声を上げて立ち上がった。


「食後のデザートに、いいものがあるんだ」


そう言い残して、田辺はキッチンへ向かう。


「あっ、田中さん、悪いんだけどカップ持ってきてくれない。おかわり淹れるから」


真帆が聞こえないふりで無視すると
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