春待月の一夜のこと
「それだけ詳しかったら、拘りたくなるんだろうなって思って訊いてみただけ。ほら、そんな怖い顔しないでさ。今いい物あげるから」


なんだその子供扱いはと、今度は別の意味で喧嘩を売られているのかと思ったが、真帆がそれに反応を示す前に、電子レンジがチンっと軽快な音を立てた。
それに田辺が「おっ!」と嬉しそうに反応し、いそいそと扉を開ける。

あっつ!おっ、あっ、あっついあっつい!!などと騒がしく田辺が取り出したのは、見るからにふかふかそうな中華まん。
それも、よく見る皮が白いものではなくて、茶色のもの。


「……なにそれ」

「ん?レンジでチンするふかふか中華まんシリーズの、冬季限定チョコレートまんだよ」

「いや、“皆さんご存知の”みたいな顔で言われても知らないから」

「え、知らないの?レンジでチンするふかふか中華まんシリーズ」


改めて言われても知らないものは知らないが、「これを知らないなんて人生損してるよー」などと田辺は大げさなことを言う。
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