春待月の一夜のこと
「ものすっごくあっつい!でも美味しい。中のチョコがね、とろっとしてて、それがとんでもなく熱いんだけど、甘くて美味しい。つまり何が言いたいかっていうと、外より中の方が熱いから気を付けて」

「…………」


何か違うくないかと思ったが、突っ込むのも面倒なので黙っておく。
持てないほどではないけれど、見るからに熱そうな中華まん。そうか、熱いのか、どうしようかな……としばし迷った末、真帆はそのままかぶりつくのをやめて二つに割った。
立ち上る湯気に乗って、濃厚なチョコレートの香りが広がる。


「ああー!ちょっとなんで割ったの」

「だって熱いって言うから」

「中華まんは丸いのにかぶりついて、はふはふするのがいいんでしょ!」

「それがいいかどうかは人によると思う」

「田中さんは中華まんを何もわかっていない」

「じゃあ田辺くんは中華まんの何を知ってるって言うのよ」


俺?俺はね――と語り出す田辺を無視して、真帆は割った片方にふーふーと息を吹きかける。
高校時代は世間話をするような仲でもなかったクラスメイトと、こうしてくだらない言い合いをしていることが、なんだかとても変な感じ。
何がどうしてこうなっているのかと考え始めると、行きつくのは記憶からすっぱり抜け落ちている昨夜の出来事。
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