春待月の一夜のこと
「さっきさ、本格的な道具は持ってないって言ってたでしょ、コーヒーのやつ。よかったらあげようか。新品ではないんだけど」


またろくでもないことを思い出したのかと警戒していた真帆だが、田辺のその発言は予想外過ぎて、すぐに反応出来ずにきょとんとしてしまう。


「とりあえず、一通り道具の名前教えて。あっ、ちょっと待ってね、今メモを……いや、そのままメッセージ飛ばした方が早いか。えっと、俺のスマホは……」


後半は独り言なのかぶつぶつ言いながら、田辺はスマートフォンを捜し回る。
まずはポケットというポケット、次にテーブルの上や下、体を捻って椅子の上も捜したところで、立ち上がって部屋の中をうろうろ。


「……ベッドの方は?枕元で見たような気がするけど」


見ていられなくて真帆がベッドの方向を指差すと、そちらを見に行った田辺が「あ、あった!」と喜びの声を上げる。


「そういえば昨日寝る前に充電したんだった。よし、じゃあ道具の名前を教えて」


笑顔で戻って来て椅子に腰を下ろした田辺に、真帆はジト目を向ける。
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