春待月の一夜のこと
「田中さんさ、すっごい怖い顔して睨んでるけど何か勘違いしてない?」

「別にしてませんけど」

「いいや、絶対してる。俺のこと、親の仇みたいな目で睨んでるし」


親の仇とは思っていないが、最低最悪の顔だけ男だとは思っている。


「よし、一回ちゃんと話し合おう。俺達はまず、話し合うことから始めよう」

「……最初からずっと話し合うつもりでいたのに、のらりくらりってかわしてたのはどこの誰よ」


田辺が話し合いたいことと、真帆が話し合いたいことはおそらく違っているのだが、お互いにわかったうえで言いはしない。


「田中さんがね、そもそも俺に興味がないってスタンスがどうかと思うんだよね。まずは、相手に興味を持つことが大事でしょ。でないと、話し合いは進まないよ」

「興味があるかどうかなんて、どうでもいいと思う。事実さえ知れたら、話し合いは充分進む」

「事実だけを追い求めていたら大事なものを見逃すって、誰かが言ってたよ」

「なにそのふわっとした情報。誰が言ってたのよ。大事なのは事実を知ることであって、それ以上に大事なものなんて今はない」


ここまで言っても、田辺には全く響いている気がしないから腹が立つ。
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