春待月の一夜のこと
「もうなんでもいいから、昨日の夜何があったのかはっきり言って!」

「いいや、それよりまずは田中さんの悩みを俺は聞きたい」

「誰が言うか!」

「じゃあ俺も言わない」


なんでそうなる!と怒鳴り散らしたいのをぐっと堪え、それはそれはもう持てる理性を総動員してなんとか抑え、それでも冷めやらない怒りでもって田辺を睨み付ける。
そのまましばらく膠着状態が続くかと思われたが、空気の読めない田辺のスマートフォンが連続で鳴り出したことによって、空気が張り詰める間もなかった。


「あっ、さっき連絡してた上司からだ。うわっ……ドン引きするくらい写真も送られてきた。えっと……全部でいいのか、一部でいいのか?だって、田中さん」


向けられたスマートフォンの画面には、メッセージアプリが表示されていて、そこには確かに写真が何枚も表示されている。でも、ドン引きするほどではない。
全ての道具を写した一枚と、その道具を更に一つ一つに分けて写したものが数枚。


「……田辺くんさ、今の流れでよくその話に移れるね」


メッセージが送られてきたタイミングが今でも、話し出すタイミングは絶対に今ではない。
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