春待月の一夜のこと
「……恋愛相談なんてしてませんけど」

「昨日の夜の話だってまだしてなかったよ」


笑顔がとんでもなく憎たらしい。というか、率直に言って一発殴りたい。


「“まだ”とか言うけど、全然話す気ないじゃない!ひとのことからかって遊んでばっかりで」

「旧交を温めていると言ってよ。そもそも、何を根拠にからかってると?ずっと本当のことしか言ってない可能性は考えないの?」

「…………」


考えていなかったわけではないはずなのに、いつの間にか、田辺にからかわれて遊ばれていると思い込んでしまっていた。


「昨日の夜、田中さんが寂しそうに俺を求めるから、俺はそれに応えた。その責任を取って、結婚しようって言ってるんだったら?最初から、本当のことしか言ってなかったんだとしたら?」


これが腹の立つ笑顔で言っているのだったら、なんとでも言い返せるのに、今日初めて真面目な顔をして言うものだから、真帆の中にも緊張が走る。
本当、なのだろうか。田辺がこれまで言っていたことは全部。
もしそうなのだとしたら、自分は酔った勢いでとんでもないことをしてしまったのでは……と思ったら、全身にじわりと汗が滲んだ。
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