春待月の一夜のこと
「いや、繋がないし」


ぐっと力を込めて手を引いてみても、驚くことにびくともしない。それが真帆としては、物凄く悔しい。


「ちょっと、離してもらえないかな」

「田中さんって、手小さいね。あと冷たい。冷え性?」


そういう田辺は男性特有の骨ばった手はしているが、全体的にほっそりとした感じで、ほかほかと温かい。


「いいでしょ別になんだって。いいから離して」

「俺の手、あったかいでしょ。よく言われるんだー」


離すどころか、田辺は反対側の手も使って、両手で包み込むように真帆の手を握る。


「ちょっと!離せって言ってるのに」

「はいはい、仲良し仲良しー」

「聞きなさいよひとの話を!!」


片手でも抜け出せなかったものが両手になってしまったら、最早真帆の力ではどうにも出来ない。それでもやられっぱなしは悔しいから、力を込めて引いてはみる。


「田中さん、反対側の手も貸して。温めてあげるから」

「誰が貸すか!ほんと、いい加減にしろ」

「えっと、恋人繋ぎはこうやって指を絡めて……」

「っ!!」


ただ握っていただけの手が、指の間にするりと指を入れ込んで絡ませてくる。それがまた妙にいやらしい動きをするものだから、背筋がぞくぞくしてしまう。
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