春待月の一夜のこと
「なんで逃げる」

「当たり前でしょ!むしろなんで近付いてくるのよ」

「もっと親睦を深めるためには、やっぱりハグかなって。ほら、田中さんはまだまだ全然俺のことをわかってくれてないし」

「ハグしたってわかるか!!」


繋がった手をピンと伸ばした状態で、テーブルの周りをぐるぐる回る二人。謎の儀式でも行っているかのようだが、真帆はこれでも必死だった。
必死過ぎて、さっきから何度もテーブルの角に体をあちこちぶつけている。


「田中さんさ、絶対に青たんになるよ、それ」

「気遣ってくれる気があるなら止まってよ!」

「田中さんが止まればいいんじゃない?」


止まったらどうなるか、そんなのは聞くまでもない。だから真帆は止まれないのだ。


「こうやって手を繋いでぐるぐる回ってるとさ、ホークダンス思い出さない?」

「……別に思い出しませんけど」


田辺の方は楽しそうだからそうかもしれないが、真帆としては必死なのでそんなものは頭をよぎることもない。
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