春待月の一夜のこと
「寒いからこっち」

「寒いとキノコなの?」

「そこじゃなくて、“クリームスープ”ってとこ。冬になるとシチューが食べたくなるのと同じ原理」

「なるほど?」


よくわかっていない様子の田辺だが、別に理解してもらおうとは思っていないので、それでいい。


「よし、じゃあ器にスープを作って、そこにチンしたご飯を……」


用意された器は二人分、そこに一つずつスープを作って、温めたご飯も半分に分けて入れていく。一枚しかないチーズも、もちろん半分こ。


「おおー、なんて簡単。これは小腹を見たしたい時に最適なスピード感」


感動しながら器にスプーンを差し込んだ田辺は、一つを真帆へと差し出す。


「はい、田中さん。あっ、塩コショウいる?」

「どうも。それはいらない」


受け取った器に差し込まれたスプーンで、ぐるぐるとかき混ぜる。


「本当は牛乳でやるともっと美味しいんだけどね」

「そういうことはもっと早く言ってよ」

「言ったってないじゃん、牛乳」

「そうだった」


バカみたいな会話にくすりと笑って、真帆はテーブルへと戻る。遅れてやって来た田辺も腰を下ろしたところで、まずは二人で小腹を満たす。
スープとご飯が混ざり合い、そこに溶けたチーズも絡み合う。これをブラックペッパーでキリっとしめるとなお美味しいのだが、これだけでも充分と言えば充分。
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