人魚の鼓動はあなたに捧ぐ
「共犯だよ」



 ──夢なんかじゃない。

 わたしは、死んだ。

 飛び起きた瞬間、そう確信した。

 湿ったぬるい空気も、甘い香りも、鋭い痛みも、一瞬だけどこの上ない恐怖も、すべてしっかり覚えている。

 あれはたしかに現実だった、はずだ。


 それなのに。

 どうしてわたしはこうして生きているのだろう。

 ここは……また、同じベッドの上のようだ。

 まるで昨日のことを繰り返しているみたいだ。

 昨日はたしか、ここで目覚めたあとにウロさんとサエキさんが来て──そこまで思い返したところで、不穏な言葉を思い出す。


『あんまりサエキを信じるなよ』


 ウロさんからの忠告を頭の中で反芻(はんすう)したとき、隣の部屋の方から足音がきこえた。

 ──わたしは思わず飛び起きて、裏口から外へ飛び出した。

 ウロさんが信用できるわけじゃない。

 けど、サエキさんを信用するのだって無理だ。

 あの足音が誰であっても、今は、とても会いたい気分になれなかった。

 ……だって。

 昨日も、その前も、わたしは、ひとりで勝手に死んだわけじゃない。

 二度も、誰かに殺された(・・・・)んだ。

 その殺人鬼の正体が、ウロさんやサエキさんかもしれない。

 どうして殺されたのか、どうして生き返ったのか──頭に疑問を渦巻かせながら、ただ、病院から遠ざかりたくて闇雲に走る。


 そうしていると、覚えのある人に呼び止められた。


「あら、お客さんかな?」


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