人魚の鼓動はあなたに捧ぐ
「珍しいねぇ。こんな何もない島に来てくれてうれしいよ」
そう言って笑うのは、昨日も話した中年の女の人だった。
からっとした笑顔に相変わらず不似合いな、血のような赤色で汚れた服を着ている。
それだけなら、昨日も見かけた人に声をかけられただけ、で終わるはずだった──けれど。
「今晩は、祭りがあってね。よければあなたも見に来るといいよ」
違和感。
その正体は、言葉に違いない。
女の人は、昨日とまったく同じことを話していた。
「……まがはみ様、でしたっけ……?」
「そうそう。もう誰かから聞いた? まがはみ様にお供えものをしてね、島の平和を願うんだよ」
誰かからも何も、わたしはあなたから聞いたのに。
指摘するべきか、なにか訊いてみるべきか──次に何を言うか迷っているうちに、女の人は「それじゃあ」と道の先へ行ってしまった。
昨日と同じように、わたしを置いてきぼりにして。
……どうしてあんな、わたしと初めて会ったかのような態度だったのだろう。
ふいに浮かんできたのは、現実離れした答えだ。
目覚めたときだって頭によぎりはしたけれど、まさかそんなはずはないとその考えは振り払っていた。
でも、揃った現実は余りにも、その答えが真実であると示しているように感じてならない。
──もしかするとわたしは、同じ日を繰り返しているのではないか、と。