人魚の鼓動はあなたに捧ぐ
「その、見つめるやつ。癖?」
思わず考え込んでしまったわたしを、ウロさんは指さした。
「えっ、そ、んな、見てました? わたし」
「うん。穴が開きそうなくらい」
言われてみればたしかに、無意識に見つめてしまっていたかもしれない。
……意識すると、なんだか恥ずかしい。
ふいにウロさんはくわえていたタバコを口から離すと、「はい」とわたしに差し出してきた。
「……えっと、これは……?」
「吸う?」
「いっ、いやいやいや……」
「あ、ごめん。新しいのもあるよ」
「そういうことじゃなくて……! わたし、未成年なので」
うっすらと思い出した記憶がたしかなら、わたしは17歳のはず。
「真面目か? ここには誰もいないだろ」
「そんな、真面目とかじゃなくて……」
誰かが見てるからとか、誠実でありたいとか、そういう理由じゃない。
ただ、そこにルールがあるのなら、守りたいだけだ。
……だってその方が楽だから。
なんとなく、自分がそうやって生きてきたのを思い出した。
「──あのさ、わがままとか、言ったことある?」
「……あんまり覚えてはないけど……言わないかも、です」
わがままなんて、言う気が起きない。
自分の理想を無理強いして軋轢が生まれるくらいなら、他人の言うことをきいていた方がいいと思う。
「だよね、言わなそ」
ウロさんは少し上を向いて、ふぅっと煙を吹いた。
くゆる煙を見つめる深青の瞳は、呆れているかのように、はたまた興味なんてないかのように、わたしのことを映してはいない。
「……じゃ、そんなかわいい君に、プレゼント」
ウロさんが指でつまんでわたしの目の前にぶら下げたのは、小さなお守り袋のようなものだった。