人魚の鼓動はあなたに捧ぐ
「なんですか、これ……?」
「お守り」
それは、見ればなんとなくわかるけど。
どうしてわたしにお守りをくれるのだろう。
お守りといえば神様、神様といえば……まがはみ様?
連想してたどり着いた答えのことを、わたしはまだ何も知らない。
……なんとなく、受け取る気にはなれなかった。
「わたしには、必要ないかも、です……」
「待て待て、嘘。怪しいもんじゃないから。ほら」
ウロさんはお守り袋を開けて、手のひらの上で逆さに振る。
中からぱらぱらと落ちてきたのは、細かく乾燥したひとつまみくらいの葉だった。
「例の葉っぱ。あれ、なくしただろ」
……そういえば、ウロさんからもらった葉、一度も嗅いでない。
ずっとポケットに入れてはいたけれど、今は病衣を着せられていて、葉っぱの行方はわからない。
「ご、ごめんなさい」
「ほら、首から下げとけ。……あ、一応きいとくけど、人間やめたくないよね?」
「へ……?」
「いや、やっぱ答えなくていいや。やめたくないってことにしとく。これは、俺のわがままね」
ウロさんはなんだかよくわからない話をしながらお守り袋を紐にくくりつけると、勝手にわたしの首へネックレスのようにかけた。
プレゼントは強制的に受け取ることになってしまったようだ。
変なものでないならいいけれど。
「……この葉っぱって、なんなんですか?」
「んー、虫除け。……記憶を食われないように」
とんでもないことを普通のことのように言うから、言葉に詰まる。
それはつまり、虫が記憶を食べているということ?
だとしたら、さっき会った女の人が昨日と同じことを言ったのは、同じ日を繰り返しているわけじゃなくて──
「あ、冗談だから」
──笑えない冗談は大概にしてくれ。
サエキさんがそんなふうに怒っていた理由が今はよくわかる。