人魚の鼓動はあなたに捧ぐ
◇
静かな波が、手のひらから小さな命の器をさらっていく。
ウロとわたし、たったふたりだけの葬列だけれど、あのネズミが少しでも救われたらいいと思った。
「……寿命っていうのは、心拍数で決まっている。なんて話があるらしい」
おもむろに口を開いたウロの声に、わたしは静かに耳を傾ける。
「哺乳類が一生で心臓を打つのは約15億回で、ネズミみたいな小さいやつは打つのが速いから寿命が短い。反対に大きいやつは打つのが遅いから寿命が長い」
たしかに、そんな話、どこかで聞いたことがあるような気がする。
「それって、人間は別、だったよね」
「そう。自然界で生きてないからな」
でもどうしてウロは、急にそんな話をしたのだろう。
自分からそんなふうに話をしてくれるタイプではないと思い込んでいた。
──そのとき、また、あの大きな地鳴りが辺りに響く。
「……ウロの、心臓の音だっけ」
「いつまでも覚えてなくていいんだよ、そんな話は」
自分で言ったのに。
笑えない冗談とか言ったから、拗ねてるのかな。
ふと視界の隅で、なにか小さなものが動いた。
「あ、ヤドカリ」
せかせかと歩く様は、地鳴りに驚いて慌てているように見える。
「……かわいい」
人間以外の生き物は好きだ。
おもしろいし、かわいいし、何よりわたしを評価しない。