人魚の鼓動はあなたに捧ぐ





 次に目を覚ましたとき、思わず飛び起きた。

 寝ていたはずなのに呼吸は荒く、冷や汗がにじんでいるのがわかる。

 ──あの痛みと、意識が遠くなる感覚はなんだった……?

 首に手をあてるも特に痛みはなく、そこに傷がある様子でもなかった。

 ……夢?

 それにしては、やけに生々しい感覚だったけれど。

 あれが夢だったとして……今、わたしがいるのはどこなのだろう。

 見覚えのないベッドに寝かされているようだ。

 部屋の角に置かれているベッドに腰かけたまま見回すと、足元の方向には通路と窓、そして左側には古びた衝立(ついたて)がある。

 それから、自分が病衣のようなものを着ていることに気がついた。

 着替えた覚えも、入院した覚えもない。

 とりあえず衝立の向こうを見ようと、床に足を乗せる。

 ぎい、と床が軋むと同時に、衝立の向こうから知らない顔が覗いた。


「お前、なんで帰ってきたの」


 まるでわたしたちが知り合いであるかのように言った見知らぬ青年は、綺麗な髪と瞳をしていた。

 窓から射し込む陽光により、瞳の中に深い海の底みたいな青色がきらめいている。

 無造作な黒髪の毛先は少しはねていて、そこには夜に(はじ)ける火花のような赤色が散らされていた。


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