人魚の鼓動はあなたに捧ぐ




 少年は足が早く、見失わないようにするのもやっとだ。

 向かう先は、浜辺のようだった。


「あの、っ! も、逃げないで……!」


 息も切れ切れに言うと、少年はやっと止まってくれた。

 それからわたしの方を振り向いたけれど、視線が合ったり合わなかったり、なんだかきょろきょろして落ち着かない。

 なんだか怯えているように思えるが、少年からすれば知らない人に突然追いかけられたのだから当然の反応だ。


「きゅ、急に、追いかけて、ごめんね……」

「……あんた……おれの、味方?」


 ──何を、問われているのだろう。

 考えてすぐに頭に浮かぶのは、昨晩のこと。

 結果として救えなかったけれど、わたしはたしかに、少年に手を差しのべた。


「味方、だと思う……」

「……なにそれ」

「わたし、なんにも知らないから……あなたのことも自分のことも、この島のこともわからないから、味方かどうかっていうのは、ちょっと──」

「……お姉さん、真面目だね」


 少年の鋭かった眼差しが、少しだけ丸みを帯びたのを感じる。

 ……訊いてもいいかな。

 でも、なんて言えばいいかな。

 自分が死んだこと、覚えてる? ……なんて、年下の子に訊けない。

 せっかくの機会なのに、いい質問が思い浮かばない。

 わたしが何も言えないでいると、少年はおもむろにしゃがみこんで、手のひらの半分ほどの大きさの貝殻を拾った。

 それを耳にあてて数秒──少年はさざめく波を見つめながら口を開く。


「不老不死って、信じる?」


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