人魚の鼓動はあなたに捧ぐ
……なんとなく、気まずい。
さっきの男の人はわたしのことを受け入れているように思えたが、この青年は違う。
わたしを疑っている──探っている、そんな感じがする。
青年は冷めた目を伏せて、なにかを考え込んでいるように見える。
「……あの」
「ん、なに?」
「あっ、いや、えっと……」
つい話しかけてしまったが、それは気まずさに耐えられずに声が出てしまっただけで、話題なんて考えてなかった。
「……他に、なんか思い出したことは?」
狼狽えるわたしを見かねてか、青年の方から話を振ってくれた。
「……いえ、なにも」
「ふーん。じゃ、『大切な人』に心当たりは?」
……大切な、人。
わたしに、そんな存在はいたのだろうか。
仮にいたとしても。
こうして思い出せずにいるのだから、そこまで大切だとは言えないのではないだろうか。
「ない? ……たとえば、家族とか」
家族──親、きょうだい、それらがいたかも思い出せない。
ふいに視線を落とすと、手に握ったままの鏡の中で自分と目が合った。
……そうしてわたしは、急に思い出したんだ。
「双子の、姉が、いた……」