キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
 スーパーに着いた私たちが夕飯の食材やらをカートに入れていく中、

「あら? 古屋くんじゃない?」

 突然誰かが律に話しかけてきた。

「おー、林田か? 久しぶりだな」

 林田と呼ばれたその人は、ものすごく綺麗な女の人。モデルみたいにスタイルが良くて、雰囲気も大人の女って感じで、律が好きそうなタイプだった。

「あら、その子は?」

 そんな林田さんは律のすぐ横に居た私に気付いて問掛ける。

「ああ、コイツは――」
「あ、もしかして、妹さん……?」
「あーまぁ、そんなトコだ」

 林田さんの言葉に曖昧に頷く律に、私は思わず眉を顰めた。

(は? 何それ。妹みたいなモンってコト? 私は律の彼女じゃないの?)

 林田さんの言葉を否定しなかった律は、そのまま彼女と楽しそうに会話を進めていくのだけど、私の心の中はふつふつと怒りが渦巻いていく。

「――それじゃあ、またね、古屋くん」
「ああ、またな」

 それから暫くして、ようやく話が終わったのかにこやかに別れた二人。

「悪いな、待たせて。行くぞ」

 そして、何事も無かったかのように行こうとする律に、私はブチ切れた。

「……何で?」
「あ?」

 私の呟きに疑問を持った律は立ち止まる。

「……何で、言わないの?」
「言わないって、何をだよ?」

 しかも、律は私が何で怒ったのか、全然分かってない。

 それがどうしようもなくムカついて、悲しくて、

「……もう、いいよ」

 怒る気力すら失せてしまった私は律からカートを奪うと、一人レジに向かって行った。
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