キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
 帰宅した私は部屋へ直行すると、制服のままベッドに倒れ込む。

(どうしたら、もっと上手く付き合えるのかな?)

 答えの出ない問いが頭の中を駆け巡る。

 もう少し余裕が持てれば、きっとあんな事くらい流せるのかもしれない。

 だけど、ただでさえ年の差という障害があって、好きとも言われない日常に不安がある中で妹扱いされていると分かって落ち込まないはずはないのだ。

(律……、私、律の気持ちが分からないよ……)

 ふと側に落ちているスマホが目に入る。恐らく制服のポケットから落ちてしまったのだろう。

 よく見ると画面がついていたので手に取って確認すると、どうやら律から着信があったらしい。しかも、その着信は十回くらい来ていた。

(何よ、いつも電話なんて掛けてこないくせに)

 すると、今度はメッセージが届く。

(もしかしたら、もう、呆れちゃったかもしれない……。別れようとか言われたら、どうしよう)

 そう思うと見るのが怖くなった私は躊躇(ためら)いながらも恐る恐る届いたメッセージを開いてみると、《今すぐ出てこい》一言そう記されていた。

「え?」

 もしやと思い部屋の窓から外を覗くと、いつもの定位置に律の車が停まっていたので私はすぐに部屋を飛び出して外へ出た。

 勢いで出て来たはいいものの、車の側までやって来た私は入る事を躊躇(ちゅうちょ)していた。

(怒ってたのに、何で私、簡単に外へ出て来ちゃったんだろ……)

 そんな状態が数分続き、私を見兼ねた律は窓から顔を出してきて、

「何やってんだよ。早く乗れ」

 いい加減車に乗るよう促してきた。

(だから、私は怒ってるんだって……)

 そんな思いとは裏腹に、結局私は律の車に乗り込んでしまい、律はそのまま無言で車を走らせた。

 車が走り出してから暫く、乗れと言った律は一言も言葉を発しないし、当然私も話さないので車内にはラジオから流れる音楽だけが虚しく響いていた。
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