キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「……新田のヤツ、本当ムカつく……」

 さっきの出来事を思い出すと、再び怒りが込み上げてきた。

“遊ばれてんじゃねぇの?”

 新田のその言葉が、胸に突き刺さる。

(遊ばれてるどころか、子供扱いしかされないし)

 何だか無性に悲しくなった私は気がつくと律に電話をかけていた。

「もしもし?」

 何度目かのコールで律が電話に出る。

「あ、律? 今、大丈夫?」
「ああ、別に大丈夫だけど、つーかお前今授業中じゃねぇのかよ?」
「…………」
「サボったな?」

 電話の向こうで苦笑している律の顔が想像出来る。

「うん……ちょっとね」

 いつになく言葉少なげで元気の無い私を不思議に思ったのか律は、

「何があったのか分からねぇけど、次の時間からはきちんと授業受けろ。な? 放課後、迎えに行ってやるから」

 優しい声でそう諭してくれる。

 迎えに行くとか、今まで一度も言われた事なんてなかったのに、こういう時にそんな事を言うなんて、本当に狡い人だ。

 律の優しさと気遣いが嬉しくて、思わず笑みが溢れた。

「わかった。頑張る」
「良い子だ」

 電話越しの声が優し過ぎて、何だか泣けてくる。

(電話だけじゃ、足りない)

 もっと話していたいけど、これ以上声を聞いていると今すぐ帰りたくなっちゃうから、

「そ、それじゃあ、放課後ね!」

 ちょうど一限目の終わりを告げるベルが鳴ると同時に、私は電話を切った。
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