キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
 そして――片付けを始めたはいいものの、

「何だよ、俺だって一生懸命やってんだぞ?」

 相変わらず片付けの苦手な律に、思わず呆れてしまう。

(何で片付けてるのに散らかってるんだろう?)

 ビールの空き缶を片付けるよう言ったら少し残ったビールを床に溢すし、古い新聞と雑誌を纏めてって頼んだら束にした物崩すしで一向に片付く気配が無いのだ。

「もう、私やるからいいよ」

 そんな惨状に呆れ果てた私は一人で黙々と片付けに取り掛かる。

 そんな私を眺めながら煙草をふかし始めた律。

(あ、また煙草! 全く、油断も隙もない)

 煙草は正直好きじゃない。匂いつくし、煙臭いし、ヘビースモーカーな律の健康も心配だから。

(けど、もう慣れちゃったんだよね、匂いとかも)

 健康の為には辞めさせたいけど、多分それは無理だろうからせめて本数くらいは減らして欲しいとは思うけど、多分無理。

 それに、

(キスした時に煙草の匂いがするのって、何だか大人な感じがして、ちょっと好きだったり……)

 辞めて欲しいと思いつつもそんな事を考えている辺り、私は別の意味で煙草に毒されている気がした。

「終わった!」

 片付け始めてから約一時間、ようやく綺麗を取り戻した部屋を前に満足した私はふと時計を見る。

 時刻は午後五時を回っていた。

「もうこんな時間! それじゃあ私、ご飯作るね」

 ようやく部屋の片付けを終えたのも束の間、私は次に台所に立って夕飯の準備に取り掛かる。

「お前、本当によく動くなぁ。帰って来てから動きっぱなしじゃん。少しは休めよ?」

(そう思うなら部屋を散らかさないでよね)

 とは口にせず、

「やる事はさっさと終わらせてから休みたいからいいの」
「そんなもんか?」
「そうだよ」

 律と話しながらも手を動かしていると、ピンポーン――とインターホンが鳴り響いた。
< 22 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop