キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「……鈴」

 ドアを開けた律の言葉に私が振り返ると、さっき引き返して行ったはずの鈴さんが立っていた。

 やっぱり私の嫌な予感が当たってしまった。

「……何の用だ?」
「……久しぶりね、律。その、話があって来たの」

 言いながら鈴さんはチラリと私を見る。

 嘘をついた私は気まずくなって目を逸らし、思わず律の後ろに身を隠した。

「……俺は話す事ねぇ。悪いが帰ってくれ」

 素っ気ない律はそれだけ言ってドアを閉めようとする。

「待って! 律、わたしやっぱりどうしても――」
「お前がどう言っても、今更何も変えられねぇんだよ。分かるだろ? もうここへは来ないでくれ」
「律っ!」

 まだ何か言いたげな鈴さんを無視した律は一方的にドア閉めてしまった。

「…………」
「律……?」

 イマイチ状況が掴めない私は戸惑ってしまう。

 そして、暫く玄関前に立っていたらしい鈴さんは、諦めたのかようやく部屋の前から離れて行った。

「……ねぇ律……」

 ベランダに出て煙草をふかし、ビールを一気に呑んだ律は、

「……琴里、悪い。お前に嘘ついてた。アイツと俺は、昔――付き合ってた」

 申し訳なさそうな表情を浮かべると、そう話を切り出した。

 分かってた、二人の間に何かがあるのは。

 だからかな? 付き合っていたと律の口から聞いた時、すぐに納得してしまったのは。

「何も無いって言ってたのに、本当悪い」

 嘘をついて悪いと謝る律を責める気にはなれず、私は首を横に振って彼の話を聞く事にした。

「俺と鈴は同じ歳で家も近所だったから、よく一緒に居た。中学に入るまでは兄貴も俺らと大体一緒だったけど、何があったか知らねぇが、中学入ってから兄貴は女を取っ替え引っ替えして遊び歩くようになってた。俺は兄貴とは違って女に興味なかったけど、いつも近くに居た鈴だけは特別だった」

 律は煙草をふかし、ポツリポツリと話を続けてくれる。

 正直、この話は私にとってあまり気持ちのいいものではないけれど、それでも私は律の話を聞かずにはいられなかった。

「高校に上がった頃、どういう心境の変化か、兄貴は彼女を作った。今まで遊んでた兄貴に初めて出来た本命の女だった。それからだ、鈴の様子がおかしい事に気付いた俺が理由を聞いたら、鈴はずっと兄貴が好きだったと知った」

 幼なじみで同じ歳。
 女の子に興味の無かった律が、唯一興味を持ち、特別な感情を抱いていたのが鈴さん。

 だけど、その鈴さんが好きだったのは、律のお兄さんだった。
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