キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「鈴の相談に乗ってるうちに、俺はアイツを放っておけなくなった。気付いたらいつの間にか鈴を好きになってたんだ。鈴も、兄貴を諦め始めてたから俺はチャンスだって思って自分の気持ちを伝えた。そしたら、アイツも同じ気持ちだって分かって付き合うようになった」

 ただ、付き合ってただけ。元カノだったってだけなら、こんなに不安は無かったと思う。

 だけど、律のあの様子から見て、その後に何かがあったんだと確信していた私は、その先に何があったのか知りたいようで知りたくなかった。

「俺と鈴が付き合い出した頃、兄貴は女と別れたんだ。そこから、俺たちの関係は狂ってった……」

 悲しみと怒りが混ざり合ったような表情を浮かべる律は、煙草を灰皿に押し付けて消すと残っていた缶ビールを一気に飲み干した。

 そして、その後の事を、律は隠さず全てを話してくれた。

 彼女と別れた律のお兄さんは、律と鈴さんが付き合い始めた事が面白く無かったようで、あろうことか鈴さんに迫り始めたらしい。

 その頃から律とお兄さんは折り合いが悪くなり、完全に距離を置くようになったとか。

 そして鈴さんはというと、律と付き合っていながら、お兄さんとも関係を持ってしまったそうだ。

 それを知った律は鈴さんに別れを告げ、高校卒業と同時にほぼ家出同然に実家を出て、今に至るという事だった。

(律は、お兄さんと鈴さん二人に傷付けられたんだ……)

 そう思うと、辛すぎる。

 話し終えた律は窓の外を眺め、無言で煙草をふかしていた。

 私は、そんな彼に何て言葉をかければいいのか分からず、少し離れた場所から律を見守るしか出来なかった。
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