キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「……あ……あの……」

 何も言わないお兄さんに、声をかける。

「ああ、ごめんね。ちょっと律に用があるんだよね。待たせてもらってもいいかな?」
「え? いや、それは……」
「いいよね?」

 良いと言っていないのに、そう強引に確認を取ると、無理矢理部屋へ入ろうとしてくる。

(ど、どうしよう……勝手に上げたら律が怒りそうだし、それに……何か、この人と二人きりには、なりたくない)

「あのっ、こ、困りますっ!」

 何とか彼を押し留め、必死に追い返そうとしていると、

「何してんだよ」

 横から低い声が聞こえてきた。

「律……」

 ちょうど帰って来た律はお兄さんと私の間に割って入り、庇うように立ってくれる。

「何の真似だ?」

 より一層冷ややかな口調でお兄さんに問う律。

「やだなぁ、そんな怖い顔するなよ? ちょっと律に用があってさ、中で待たせてって頼んでたんだよ」
「無理矢理入ろうとしてたみたいだが?」
「そんな事ないよね?」

 お兄さんは私に同意を求めてくるけど、怖かった私は何も答えず律の後ろに身を隠した。

「あれ? 嫌われちゃったかな?」
「とにかく、金輪際今みたいな真似はするな。それから、この前も言ったが、俺の方に用はない。話す事もない。帰ってくれ」

 それだけ言うと、律は私の手を引いて部屋に入り、ドアを閉めて鍵をかけた。

 暫くすると、玄関の外から人の気配が消えて行く。

「あ、あの、律……」
「何で開けたんだ?」
「ご、ごめんなさい……律、鍵持って行かなかったから、だから、律かと思って……」
「馬鹿野郎! こんな時間に確認もしないで開けるな!」

 静かな部屋に律の怒声が響き、私は何も言えずに俯いた。

 すると、

「……悪い、元は俺のせいだよな……」

 そう言いながら律は私の頭を優しく撫でてくれた。
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