キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
 公園を後にした私が律のアパートに向かうと、部屋には誰も居なかった。

「あれ? コンビニにでも行ったのかな?」

 ベッドの上にスマホが置いてあるのを見つけた私はコンビニに煙草でも買いに行ったのだろうと思い、ささっと部屋を片付けてから寛いで律の帰りを待っていた。

「……律、遅いなぁ」

 コンビニまでは徒歩で十分くらいだし、スーパーだとしても同じくらいの距離だからそんなに時間がかかることは無いはずなのだけど、私が来てから既に三十分が経っているから流石に遅いと思ってしまう。

 その時、私の頭にあることが()ぎった。

(……もしかして、鈴さんに、会った?)

 どうしてもっと早くに気付かなかったんだろう。

 彼女とはアパートからそれ程遠くない公園で私と話をして、私よりも先に公園を出て行った。

 あの時、私の言葉に納得してくれたから大丈夫かと思っていたけど、帰り際、偶然コンビニかスーパーに行こうとしていた律と遭遇する事は充分考えられたのだ。

「……嫌だ、律……」

 居ても立ってもいられなくなった私はスマホと鍵だけ握りしめると、すぐにアパートを出て律を探しに向かった。

 外に出ると、雲が厚くて暗くなりつつあり、今にも雨が降り出しそうだった。

(早く行こう)

 傘を持ってこようか一瞬迷ったけど、一刻も早く律に会いたかった私は引き返す事無く探しに出て行った。
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