キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
 アパートに着いた私はシャワーを浴びて、濡れた制服を乾かしていた。

 あれから一時間くらい経つけど、まだ律は帰って来ない。

「…………律……」

 早く帰ってきて欲しいけど、あの事を聞くべきか、それとも何も言わないべきなのか迷っていたそんな時、

「ただいま、あーすげぇ降られた……」

 ようやく律が帰って来た事で、ひとまず安堵する。

「律、おかえり」
「おー来てたんだ? ってか琴里も降られたんか?」
「うん、そうなんだ。急に降ってきたからね」
「つーことは、まだ来てからそんなに経ってねぇんだ?」
「……うん。そうだけど、それがどうかした?」
「いや、何でもねぇよ。俺もシャワー浴びてくるわ。琴里、悪いけどお湯沸かしておいてくれ。出たらコーヒー飲むから」
「うん、分かった」

 そう言って律はお風呂場へ向かって行った。

 鈴さんと会ってた事は、何も言ってくれなかった。

「……どうして隠すの? 言えない理由が、あるの?」

 聞きたいけど、怖い。

 律が黙っているつもりなら、聞かない方がいい。

 そう思った私は、さっき見た事は忘れようと心に決め、お湯を沸かして律が出て来るタイミングでコーヒーを淹れた。
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