キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「はい、どうぞ」
「おー、サンキュ」

 律がお風呂から上がり、ソファーに座ったのと同時にコーヒーの入ったマグカップを手渡した。

 私はその横に座ってコーヒーを一口飲んだ。

「どーした? 何か元気ねぇな? 学校で何かあったのか?」

 口数の少ない私を不思議に思ったのか、律が心配してくれる。

「ううん、何にもないよ?」

 その優しさが、辛い。

 律は私がさっきの現場を見ていた事を知らないから、仕方ない。

 考えないように明るく振舞おうとすればする程辛くなり、

「おい、琴里……どうしたんだよ?」

 堪えきれなくなった私の瞳からは、大粒の涙が零れていた。

「ごめ……、違うの、何でもないの……っ」
「何でもねぇわけねぇだろ? 何があった?」
「ほんとに、何にも……っ」

 こうなってしまうと、もう隠すのは無理だった。

 言いたくなかったけど、もう言うしかない。

「……ごめん、言うつもり……無かったの……でも、もう……隠すの、無理みたい」
「何なんだよ?」
「……私、さっき……見ちゃったの……」

 私のその言葉に、律は全てを悟ったらしい。

「お前……そうか……そうだったのか……悪い……」

 申し訳なさそうに謝った律は、溢れ出る涙を拭っていた私の身体を抱き締めてくれたけれど、その手で鈴さんの事を抱き締めていたのかと思うと、余計に辛くなった。
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