キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「……コンビニの帰りに、偶然鈴を見かけたんだ。最初は見ないフリするつもりだったけど、何だか泣いてるように見えたから、放っておけなくて声を掛けた」

 そして、律は鈴さんと会った経緯を話してくれる。

 彼女は私との話を終えて公園を後にした時、一旦はそのまま帰ろうと思ったらしいのだけど、やっぱりどうしても律に会いたかったみたいでアパートの方へ向かっていたという。

 そしてその途中で律に会い、場所を変えて話をすることになり、そこからは私が見た光景に繋がるようだ。

 あの時、彼女は私の言い分を聞いて納得したんだと思った。

 だけど、実際は違った。

 律じゃなくてお兄さんを選んだくせに、想ってくれてた律を傷付けたくせに、自分の都合で会いに来て、私や律の仲を壊そうとしてる。

 そんな彼女が、私はたまらなく嫌いだ。

「……ねぇ律、鈴さんは……どうして律に会いに来るの? ずっと会ってなかったのに、どうして今になって来るの?」
「……鈴と兄貴は、ここ半年くらい前から色々揉めてるらしい。まあ、兄貴の女遊びが原因らしいけどな」

 それで鈴さんは、律にどうして欲しいのだろうか。

 私にはそれだけが理由で会いに来てるんじゃない気がする。

 もっと、別の理由がある気がする。

 そしてその理由に、律は気付いてる。

「……ねぇ律、私、泣いたり怒ったりしないから、ちゃんと本当の事を言って欲しいの」
「本当の事?」
「鈴さんは、律とやり直したいから会いに来たんじゃないの? お兄さんと別れて、律と一緒になりたいから……」
「な、んだよ……それ。そんなわけ……」
「誤魔化さなくていいよ。お願い、本当の事を、教えて?」

 そう言いながら私は、律が否定してくれるのを密かに期待してた。

 違う、そんなわけ無いだろって言ってくれると思った。

 だけど、状況は最悪だった。

「――そうだ、琴里の言う通り……アイツは、兄貴と別れて、俺とやり直したいと言った。そんな事、出来るわけねぇのにな」

 だって、私の考えていた通りの展開だったんだから。
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