キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
 画面を見ると、着信は律から。

「……出ないの?」
「……ええ、今は、いいです」

 私のその返しで、着信が律からだと分かったのだろうか。お兄さんは私の手からスマホを取り上げると、

「ちょっ、何して――」

 私の問いかけを無視して勝手に電話に出てしまった。

「もしもし、律?」

 私の電話にお兄さんが出れば、当然律は驚くだろう。

 お兄さんは電話をスピーカーに切り替えると案の定、

『おい、何でテメェが琴里の電話に出んだよ? お前まさか、琴里と居るのか?』

 もの凄く怒っている律の声が聞こえてきて、私がお兄さんと一緒に居ることに気付くと酷く慌てた様子だった。

「そうだよ。街で偶然会ってね。ちょっと話がしたくて誘ったんだ」
『はあ? お前が琴里と何話すんだよ? つーか、話す相手が違ぇだろうが! まずは家に帰って、鈴と話せよ』
「うーん、だって鈴と話しても平行線のままじゃん。鈴は俺と別れたいんでしょ? でも、俺は別れたくない。これ以上何を話せっていうんだよ?」
『だから、別れたくねぇなら何でテメェは他の女と遊び歩いてんだよ? 別れたくねぇなら態度を改めろって言ってんじゃねぇか』

 律は私が聞いていないと思っているのか、話は鈴さんとお兄さんの話へと変わっていく。

 話を聞く限り、お兄さんの方は鈴さんと別れたくはないみたいだけど、それなら何故、彼は他の女の人と会ったりしているのだろうか?

 きっと律も同じ事を思っていると思う。

 何だか、思ってる以上に複雑な事情があるのかもしれない。
< 55 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop