キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「とにかく、今日は律の彼女と楽しい時間を過ごさせてもらうから、律は鈴と楽しめばいいよ」
『はあ? テメェ、いい加減にしろよ? つーか今すぐ琴里を解放しろよ』
「人聞き悪いなぁ、それじゃあまるで、俺が無理矢理彼女を連れ込んだみたいじゃん。琴里ちゃんは自分から俺に付いてきたんだよ? ね、琴里ちゃん?」

 ここでようやく、律は電話がスピーカーになっている事に気づいたらしく、

『おい、琴里! お前、何考えてんだ? 今すぐそいつから離れろ』

 今度は私に向かって言葉を掛けてきた。

「……律……大丈夫だよ、話してるだけだから。心配、しないで」
『駄目だ。今どこだ? すぐ迎え行く』
「…………」
『琴里?」』
「……律に、駄目なんて言う資格……あるの?」
『は?』
「……だって律は、お兄さんがいない間、鈴さんの傍にいるんでしょ? 女の人と、二人で……いるんでしょ? だったら、私が今お兄さんと二人で居ても何も言えないと思う……」

 こんな事、言うつもりじゃなかった。

 律が心配してくれていたのは分かった。

 でも、私にだって言い分はある。

 私だって、本当は鈴さんの傍にいて欲しくなんかないの。

『おい、琴里……』
『――律、お義父さんが呼んでるわ』
『悪い、後で行くって言ってくれ。今取り込んでんだ』
『そう……』
『おい、琴里――』

 タイミング悪く鈴さんが部屋に入って来たのか、彼女の声が聞こえて来た私は、律が何か言いかけたのは分かったけど、それを聞く事なく電話を切った。
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