キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「良かったの? 切っちゃって」
「……いいんです」
「そう……」

 切ってすぐ再び律から電話がかかったけど私はそれに出る事をせず、これ以上掛けてきて欲しくなくて、強制的に電源を切ってしまう。

「君、結構大胆な事するね? でも、君が電源切ったら今度は俺にかかってくるんだよ?」

 そう言ってお兄さんは自身のスマホを取り出すと、【律】と表示された画面を見せてきた。

「どうする? 出た方がいいと思うよ? 律、心配してたよ?」
「そう思うのならご自由にどうぞ」
「……いいや、俺も出ないでおくよ」

 結局お兄さんは律からの電話には出ず、暫くすると諦めたのか着信が来る事は無くなった。

「――あの、先程の電話で、お兄さんは鈴さんと別れたくないって仰ってましたけど、それならどうして他の女の人と一緒に居るんですか? 鈴さんの事が好きなら、彼女の傍に居ればいいのに」

 電話があって以降お兄さんが何も話さなくなって無言の状態が三十分程続いていたので、それに耐えられなくなった私は疑問に思っていた事をさり気なく聞いてみた。

「……まあ、普通はそう思うよね。けど、それは無理なんだよね」
「無理……とは?」
「鈴はね、俺の事嫌ってるから。嫌われてるって分かってるのに、一緒に居るのは辛いでしょ?」
「それは、そうですけど、でも、鈴さんとお兄さんは好き合っていたから、結婚したんですよね? それなのに、どうして……」
「……まあ、これは全て俺が悪いんだよ。当然の報いなんだ」

 一体お兄さんは何が言いたいのか分からず、私が首を傾げていると、

「……俺さ、昔からずっと、律の事が嫌いだったんだ」

 突然、律を嫌いだったというカミングアウトを始めたので、それに聞き返したりせず黙って彼の話を聞く事にした。
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