キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「俺が小学校へ上がるのと同時にうちは引っ越して、近くに住む鈴と関わるようになってから、俺たち兄弟の関係は少しずつ変わっていったんだ」

 お兄さんの話によると、引っ越した当時は三人仲良く行動していたという。それは前に律からも聞いていたから知っていたけど、律から聞いた話では中学へ上がった頃からお兄さんは変わってしまい、女遊びが激しくなったと言っていた。

 けれど、それには理由があったのだ。

「俺は、出会った当時から鈴に好意があったんだ。鈴も俺の事を好いててくれてるのが何となく分かってたから、両想いなのかなって思ったりもした。けど、ほぼ同時期に、律も鈴の事を特別に見てるって知ったんだ。まあ律はそういう事に疎い奴だったから気付いてなかったのかもしれないけど、俺は分かってた。その時、俺ら兄弟は同じ女の子に好意を寄せてるんだって知った」

 二人は同時期に鈴さんに好意を寄せていて、その事にお兄さんだけが気づいていた。

 確かに、律はその当時から鈴さんを好きだという認識こそ持ってはいないようだったけど、特別だとは言っていた。

「俺は鈴が好きだったけど、二人とは学年が違うから二人にしか分からない話が出てくる事もあって、たびたび疎外感を感じてた。小さな事だけど、それが積もりに積もって、日に日に面白くなくなってきたんだ。まあ、完全に嫉妬なんだけどね、当時は当たり前のようにいつも鈴の横に居る律にイラついて、律を嫌いになっていったんだ」

 恐らく、中学の頃から女遊びが激しくなったのは、二人への当てつけだったのだろう。

「俺が女を取っかえ引っ変えしてる事で、鈴が気に病んでるのは分かってた。そうしてでも、俺の方を見て欲しかったんだ。そんな状態が続いたまま俺は高校に上がった時、一人の女の子に出会った。その子は今まで遊んで来た女とは違う、初心で純粋で俺にとって特別な子になって、いつしか……彼女と付き合う事になった」

 そして、律に聞いていた通り、お兄さんは高校へ上がってから出逢った一人の女の子に一目惚れして、その子を彼女にしたという。
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