キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「だけど、その子とは駄目になっちゃったんだ。その子は良いところのお嬢様でさ、今どき信じられないけど、政略結婚で許嫁がいたんだ。彼女はそんな気なくて俺と別れたがらなかったんだけど、彼女の父親が怒って……俺たちは半ば強制的に別れさせられた。それが、ちょうど高校卒業の頃だった。律と鈴は俺が別れた頃に付き合い始めたみたいで、俺としては心底面白くなかったよ。別に二人が悪いわけでもなかったけど、八つ当たりだって分かってたけど、許せなかった。二人が幸せそうにしてる事が……」

 それも律から話を聞いた通りで、お兄さんは律と鈴さんの仲を壊したくて、鈴さんに迫ったと。

「だから俺は、どうしても律から鈴を奪ってやりたくて――」

 お兄さんがそう言葉を続けようとした、その時、ドンッと外から窓を叩く音が聞こえてきた事に驚いて外へ視線を移すと、

「律……!?」

 殺気に満ち溢れた表情を浮かべた律の姿がそこにあった。

 そして鍵のかかっていないドアは外から開けられ、

「琴里!!」

 律のその声と共に、私の身体は抱き締められた。

「律……」
「馬鹿野郎! 何で電源切るんだよ! 心配したんだぞ!?」
「……ご、ごめん、なさい。けど、どうして?」
「探したに決まってんだろ? 街で会ったって兄貴が言ってたから、まだ近くに居るかと思って探してたんだ。そしたら兄貴の車見つけて、二人の姿が見えたんだ」
「そ、そうだったんだ……」

 これには流石に驚いたけど、息を切らしてまで探してくれた事は、凄く嬉しかった。
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