キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「琴里〜」

 翌朝、学校に着いた私が教室に入ると、クラスメイトで仲良しな麻紀(まき)紀子(のりこ)が元気よく駆けてくる。

「麻紀、紀子おはよ。どーしたの?」
「今日放課後カラオケ行こうよ! 新田(にった)の奢りだよ!」
「せっかくだけど、私はパス」
「えー? 琴里、最近付き合い悪くない?」
「まさか、男?」

 カラオケの誘いを断ると、麻紀と紀子は少しムッとしながら口々に言ってくる。

「まぁ、そんなとこ。だからパスね」
「琴里は本当モテるよね、羨ましい」
「今度はいくつの人? 大学生? それとも同級生?」
「馬鹿ね、琴里の事だもん、大学生か社会人に決まってるでしょ」
「そっか、そうだよねぇ」

 私をよそに、二人は勝手にどんどん盛り上がっていく。

 私は、友人たちに嘘をついている。

 それというのも高校に入って出来た友人たちは皆男遊びの激しいギャルばかりで、最初は話を合わせる為についた小さな嘘が今ではすごく大きくなっていて、気付けば私は恋愛経験豊富なキャラという位置づけになっていた。

「で? いくつなの?」
「それは………」

 今までは嘘だったけど、今回は本当に出来た彼氏。

 本当なら自慢したい。

 けど、律は三十歳。

 友人たちの言う社会人の彼氏として相応しい年齢はせいぜい二十代前半。

 律の年齢を言ったらきっと、『おじさん』って馬鹿にされるのは分かりきっていた。

 大好きな律を馬鹿にされる事が耐えられない私は、「……に、二十代前半………」と更に嘘を重ねてしまう。
< 6 / 70 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop