キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「つーか兄貴も、電話に出ろよな!」
「うーん、出ようとはしたけど、琴里ちゃんの意志を尊重したんだよ」
「クソが!」
「はは、酷い言われよう」

 律は息を整えると真剣な眼差しでお兄さんを見つめ、

「……兄貴、これから俺のアパートに来てくれ。鈴を待たせてる。このままじゃ駄目だと思う。一度話をしよう。琴里も、来てくれるか?」
「……うん」
「……はあ。分かったよ」

 律の言葉に渋々と言った感じでお兄さんは了承し、私たちは律のアパートへ向かう事になった。

 アパートに着くと中で待っていた鈴さんに出迎えられた。そして、重苦しい空気の中、私と律が横並びに座り、その向かい側に鈴さんとお兄さんが並んで座って話し合いが始まったのだけど、いざ話そうとなると何を切り出したらいいのか分からないようで、誰が話を始めるか探りあっている状態だった。

 暫くして、その沈黙を破り最初に口を開いたのは――お兄さんだった。

「さっき、琴里ちゃんとは話が途中だったよね。鈴、律、俺、さっきまで俺たちの過去について彼女に話をした。ちょうど、俺が二人の仲を壊してやろうと思ってた時の話をしている途中だったんだ。彼女、途中まで聞いてて気になってるだろうし、二人もそのまま聞いてくれるかな?」
「蓮! その話は……」
「鈴、黙って聞いてろ。兄貴が話すって言ってんだから俺は聞きたい。過去の話だ、今更何を聞いても……俺は平気だから」

 お兄さんの言葉に何故か慌てる鈴さんと、それを制して冷静な態度で対応する律。

 一体お兄さんが話そうとした事の続きには何があるのか、私は気になって仕方がないのと同時に不安な気持ちが溢れてきて、ザワつく心を必死に鎮めていた。
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