キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「俺が付き合ってた彼女と別れて、律と鈴が付き合っていた事が面白くなくて、二人の仲を壊してやりたかった俺は……鈴を自分のモノにしよう、律から奪ってやろうと思って……嫌がる鈴を、無理矢理犯したんだ」

 そう淡々と話し出したお兄さんの言葉に、私は絶句した。

 そして、それを聞いた鈴さん本人は悲痛な表情を浮かべると顔を俯けてしまい、律はというと、拳を強く握りしめてはいるけど、表情は変わっていなかった。

 要するに、鈴さんが自ら望んでお兄さんと関係を持ったわけではなくて、無理矢理されたというのが、事の顛末だった。

 そして、それを話せなかった鈴さんと律の関係は悪化して、律は真実を知らないまま別れてしまったという事なのだ。

 だとしたら、鈴さんが律を想っている事に納得がいく。だって、彼女自らが望んでいない事が原因で別れてしまったんだから。

「……律、知ってたんだ?」

 あまりに冷静な状態で話を聞いている律を不思議に思ったお兄さんが問い掛ける。

「ああ、それを知ったのはだいぶ後の事だけどな。鈴本人から聞いた」
「そっか。鈴はそれを話して、俺の元から律に連れ去って貰いたかったのかな?」

 お兄さんの問い掛けに頷く事も否定する事もしない鈴さん。

 彼女の事はあまり好きではないけど、話を聞いて律から離れた真相を知ってしまった今、彼女には心底同情する。

 私が鈴さんの立場だったら、もの凄く辛いもの。

 再び誰も話さなくなってしまい、気まず空気が漂っていく。

「……鈴から話を聞いた時、俺は兄貴を本気で殺してやりたいと思った。ふざけるなって思った……けど、元は鈴も兄貴が好きだったわけだし、俺が自分の気持ちに気づかなければ、こんな事になってなかったのかもしれないとも思った。何よりも二人は結婚しちまったし、もう今更だろって思ったよ」

 今度は律が胸の内をぽつりと話し始めた。
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