キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
 律は律なりに自分の中で気持ちの整理をつけて過去の事にしようと思っていたはずなのに、鈴さんは何故、結婚してしまってから過去をカミングアウトしたのだろうか。

 その答えは、すぐに知る事になる。

「……そうだね、でも、鈴はきっと、もっと早く言いたかったんだと思う。勿論、俺と結婚する前に打ち明けたかったんだと思うよ。でも、それが出来なかったんだよ……」
「蓮……もういいの、お願いだから、もうこの話は止めて……」
「もう隠す必要はないよ。全て話した方が楽だろ?」
「何だよ、まだ何か隠してる事があるのか?」
「ああ、そうだよ。そもそも俺と鈴が、何で結婚したか分かる? 鈴は俺に無理矢理されて律と別れさせられたのに、望んで結婚するはずないって分かるだろ?」
「何だよ、それじゃあ、結婚も無理矢理強要したってのか?」
「……強要するつもりはなかった。けど、そうせざるを得ない状況になった……っていうのが正しいかな。当時鈴のお腹には俺との子供が出来て、その事がきっかけで俺たちは結婚を決めたんだ」

 鈴さんとお兄さんが結婚する事になった理由――それは、二人の間に子供が出来たからだった。

「何だよ、それ。そんなの親父もお袋も言ってなかったじゃねぇか」
「それはそうだよ。父さんにも母さんにも言ってない。安定期に入ってから周りには言うつもりだった。けど、籍を入れて少しして、子供は……流れちゃったんだよ……」
「…………そう、だったのか……」
「それでも、もう籍は入れてたから今更別れる事も出来なかった。鈴も、過去の事は水に流して俺と生きる決意をしてくれたけど、子供もいなくなって、やっぱり俺の事は許せなかったんじゃないかな? 一緒に居ても、どこか楽しくなさそうだった。俺はそんな鈴の傍に居るのが辛くなって、他の女に逃げるようになった。だから鈴は、律に助けを求めに行ったんだろ? 俺の元から連れ出して貰いたくてさ」
「…………」
「今更謝って済む事でもないけど、鈴には悪い事をしたって思ってる。俺は好きだけど、やっぱり俺たちはこのまま一緒に居続けていても、関係の修復は出来そうにないね。もう、鈴の好きなようにしていいよ」

 お兄さんは彼女にそう言ったけど、鈴さんはただ黙ったまま。

 そんな鈴さんに代わって口を開いたのは律だった。
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