キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
「鈴、お前はそれでいいのか? 別れる事を本気で望んでるのか? 別れて俺とやり直したいと思ってるなら……悪いけど、それだけは出来ない。俺はもう、鈴の傍には居てやれない。鈴の事は好きだけど、それはもう過去の事だ。今更やり直す事は出来ないし、今後もその可能性は一ミリもない」

 律のその言葉に顔を上げた鈴さんは泣きそうな表情を浮かべ、「……もう、絶対に、無理……なの?」と律に問い掛ける。

「ああ、無理だ。今の俺には、琴里が居るからな」

 そして、はっきり拒絶を示すと、私の名前を口にした。

「……律……」
「琴里と出逢ってなかったら、鈴とやり直したいと思ったかもしれない。だけど今は、俺の中で一番大切なのは琴里だから、鈴の一番にはなれねぇんだ。ごめんな」
「……そう、よね。ううん、いいの。きっと、わたしたちはもう、とっくに無理だったのよね。それなのに、悩ませて、困らせて、本当に……ごめんね、律……。ごめんなさい、わたし、帰るわ」

 これ以上この場に居るのが辛くなったのか、鈴さんは立ち上がると足早に部屋を出て行ってしまう。

「鈴! ……律、今日のところは帰るよ。琴里ちゃんも、こんな重い話に付き合わせてごめんね」

 そして、鈴さんを心配したお兄さんもまた、早々に部屋を出て行って、残された私たちは何を話したらいいのか分からなくて暫く無言のままだった。
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