キスだけで誤魔化さないで。好きってちゃんと、言ってよね。【完】
 新田からすれば、私が恋愛未経験だって知らないし、恋愛経験豊富ならキスくらい良いかなって思ったのかもしれない。

 それに、私だって恋愛経験豊富という嘘がバレない為にもキスくらいでは騒げなかったから、これは全て自業自得なんだ。

 そんな事があったから、それ以降は皆と一緒の時以外極力新田とは関わらないようにしてる。

「なぁ琴里」
「しつこいよ。行かないって!」

 粘着質な男で嫌になる。

 校門を出ても尚の事付いてくる新田に腕を掴まれた私が彼の手を振り払おうとした、その時、

「女口説くならもっと場所考えた方がいいぞ?」

 そう言いながら新田の手を払いのけてくれたのは他でもない、律だった。

「律!」
「何だよ、アンタ」

 手を払いのけられた新田は苛立ちを抑えきれないのか睨み付けながら律に詰め寄るけど、当の律はポケットから煙草を取り出すと、呑気に火を点け始めた。

「おい! お前!!」
「行くぞ、琴里」

 そして、無視されて更に苛立つ新田を気にする事も無くさっさと歩いて行ってしまう。

「おい、待てよ! なあ琴里、何なんだよ、アイツ」
「……律は……」

 詰め寄る新田の質問に私が答えようとすると、

「琴里!」

 いつになく強い口調で名前を呼ばれた私は近付く新田を力いっぱい押し退け、

「ごめん、もう行くから!」

 律の後を追ってその場を後にした。
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