身代わりから始まる恋  〜白い悪魔の正体は甘くて優しい白馬の王子!?〜
白い悪魔
「鬼課長、白い悪魔にやられたらしいよ」
 伊寄紅美佳(いよりくみか)に言われ、兎山香蓮(うやまかれん)は目を見開いた。
 会社で昼休みに入った直後のことだった。

「国道のバイパスに出るって言うあの……」
「鬼課長以上に冷酷非情、無慈悲な正義の白い悪魔。七千円とられたって」

「課長が違反なんて意外」
「親が救急車で運ばれたって聞いて、車で病院に行くときに信号を見落としたんだって」
「それで白バイに捕まったのね」
 香蓮は同情した。そんなときは平常心ではいられないだろう。

「慌ててるときこそ慎重に、だって。理屈はわかるけどさあ。鬼課長でもさすがにかわいそうだわ」
 課長の湖平直斗(こだいらなおと)はぶっきらぼうで言い方がきつい。仕事はできるし顔が整っているから社内にファンもいるが、紅美佳は鬼課長と呼び、まるで天敵の扱いだった。

「どうせ捕まるなら白馬の王子様がいいわ」
 紅美佳がこぼす。
「取り締まりは正しいんだろうけど、いろんな人から恨みを買ってそうね」
 香蓮はあまりバイパスを使わないし、白バイなんて縁のない遠い存在のように思える。

「俺なら白バイなんて振り切るけどな」
 背後からの声に、香蓮は振り返る。そこには恋人の曽田雄聖(そだゆうせい)がいた。

「曽田さんならやりそう」
 経理事務の栗生舞奈(くりおまいな)がけらけら笑う。テレアポの派遣社員の女性たちが一緒に笑っていた。

 香蓮は笑えなかった。三歳上の彼は三十一歳。良い年した大人がそんなことでイキっているのはどうかと思う。
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