身代わりから始まる恋  〜白い悪魔の正体は甘くて優しい白馬の王子!?〜
「サイドカーなんて初めて。バイクは普段は乗らないの?」
「乗ってるよ。署によっては禁止のところもあるけど、うちは大丈夫だから」
 平日のせいかほかに誰もいなかった。それがさらに香蓮の鼓動を早くする。

 フェンスに寄ると、眼下に遮蔽物なく夜の街が広がった。
 闇の中に小さな明かりがゆらめき、国道には車列のテイルランプが赤く光る。秩序があるようで無秩序にちらばる無数の光。山裾の闇との対比が面白くもあった。夜空は雲一つなく、月が煌々と照っている。

「きれいね」
「喜んでもらえて良かった」
 顔を向けると微笑する彼が見えて、慌てて夜景に目を戻した。

「君とつきあうことができて浮かれちゃったよ」
 なんでそんなこと言うんだろう。本当の恋人みたいなことを言わなくてもいいのに。
 香蓮は痛む胸を押さえて目を伏せる。

「偽装恋人なんて、ごめんね」
「偽装?」
 澄玲はけげんに聞き返す。

「私が元カレにつきまとわれそうだから、彼氏のふりをしてくれるんでしょ?」
「俺、一度も偽装なんて言ってないよな?」
 確かにそうだけど、と香蓮は戸惑う。

「じゃあ、なんで?」
「君が好きだから」
 断言され、一気に顔に血が上った。
「確かに急ぎすぎだな、とは思ったけど」
 澄玲は頭を軽くかいた。
< 25 / 57 >

この作品をシェア

pagetop