身代わりから始まる恋  〜白い悪魔の正体は甘くて優しい白馬の王子!?〜
人質



 香蓮は深くため息をついた。
 キスの余韻はずっと胸の中でくすぶって消えてくれない。
 仕事に集中できなくて、パソコンでの入力ミスを繰り返した。

 昨日会ったばかりなのに、もう彼に会いたくて仕方がない。
 彼は不規則な勤務だというから、都合よく会えないだろう。そのうえイベントの準備があるという。

 交通機動隊には朝番と遅番があり、四日に一度、夜勤もある。
 夜間はパトカーや覆面パトカーで警らに出ると言う。白バイでは危険だからだ。
 白バイ隊員は殉職率がほかの警官より高いという。
 心配でたまらない。彼と無理して会うことだけはやめよう、と心に誓った。

「心ここにあらずだけど、大丈夫?」
「うん……」
 隣席の紅美佳に聞かれ、香蓮はうなずく。
「詳しくはまたランチで聞くから」
 にやっと笑って、紅美佳はパソコンに向き直った。



 異変を感じたのは、紅美佳とランチから戻ったときだった。
 フロアに入った瞬間、舞奈と、テレアポをしている派遣の女性たちから冷たい目を受けられた。
 彼女らの中心にいたのは雄聖だ。
 目が合うと、彼はにやりと笑った。



 理由がわかったのは翌日だった。
 出勤するなり、紅美佳が香蓮の腕を引っ張って廊下に連れて行く。
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