身代わりから始まる恋  〜白い悪魔の正体は甘くて優しい白馬の王子!?〜
 周囲を確認してから、紅美佳は言った。
「覚悟して聞いて。変な噂が流されてる」
「どんな?」

「あんたがスピード違反したのに、曽田に罪をかぶせた。その上、そのときの白バイ警官になびいて曽田を捨てたって」
「なにそれ!?」

「曽田は愛しい人のために犠牲になった悲劇の主人公、あんたは手ひどく裏切った悪女ってことになってる」
 身代わりに差し出そうとしたのは彼だったのに。
 香蓮はよろめいて壁に手をついた。
 自分の性格では自ら否定して回るなんてできそうもない。そこまで読まれているのだろう。

「あいつ外面はいいからみんな騙されてる。私、栗生さんに忠告されたのよ。一緒にいるとひどい目に遭うよ、って」
「ひどい目って」

「わからないけど気を付けて。あんたは鈍感だから気付いてなかっただろうけど、栗生さん、曽田のこと好きだから」
「そうなの!?」
 やっと彼女がきつく当たって来た理由がわかった。

「先に噂を流した方が有利なのよね。ずるいったらないわ」
 悔し気な紅美佳に、香蓮はなにも言えずにうつむいた。



 就業中はなにごともなく過ぎていった。
 ひそひそする声が気になったが、大きな出来事はなかった。
 問題が起きたのは終業間際、紅美佳が離席したときだった。
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