身代わりから始まる恋  〜白い悪魔の正体は甘くて優しい白馬の王子!?〜
「兎山さーん、お願いがあるんだけど。メールで送ったから見てね」
 舞奈が言う。香蓮が了承する前に彼女は自分の席に戻る。
 香蓮は不安になりながらメールを開き、顔をひきつらせた。
『違反の身代わりは犯罪よね。警察に言われたくなければ代わりに仕事して』

 メールに添付されていたのは、ウォーターサーバーの支払いが滞っている人のリストだ。この人たちに督促の電話をするのは舞奈とテレアポの仕事だった。
 思わず舞奈を見る。目が合うと、にやっと笑った。

 香蓮はごくりと唾を飲み込んだ。
 警察の不正なら監察に通報するところだ。だが、彼女は警察にと言った。知らないのか、段階を踏んでいくつもりなのか。
 確認する気にはなれなかった。こちらから言うのは藪蛇になりそうだ。

 澄玲は身代わりに言及せずに見逃してくれた。正義に厳しい悪魔どころか、充分に温情をかけてくれたのだ。あのときはまだお互いに他人だと思っていたのだから、決してひいきなどではない。

 だが、それが警察や監察にばれたらどうなるだろう。
 警察官であればこそ、わずかな瑕疵(かし)でも騒がれるのではないだろうか。
 せっかく夢を叶えたのに。
 警察学校での演舞を控えているのに。

 香蓮は震える手で返信する。
『身代わりは誤解です。仕事が大変なら引き受けます。これでこの話は終わりにしてください』
 返信を見て、舞奈はにやっと笑った。



 舞奈の要求はそれで終わらなかった。
 翌日もメールで、テレアポの担当分まで督促電話をおしつけられる。
 舞奈たちは定時で上がり、香蓮は残業して電話をした。
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