身代わりから始まる恋  〜白い悪魔の正体は甘くて優しい白馬の王子!?〜
 督促の電話は精神を削られる。
 忘れてたわ、と支払いを約束する人もいれば、電話に出ない人もいる。

 一番精神に来るのは、お年寄りへの電話だった。
 年金生活だから、なかなか……と言葉を濁される。
 何日なら、と約束を取り付ける。が、記録を見ると、それでも振り込みがないことはよくあった。

「支払いが無理そうでしたらご家族に相談なさってみてください」
 そう言ってみるが、家族がいないと言う方もいて、ずんと心に重くのしかかる。
 余裕がないなら、どうして契約なんてしたんだろう。
 そう思う彼女に、ご老人のほうから「防災用品だと言われて」と言い訳された。
 香蓮は顔をしかめた。被災時は確かに水が重要だ。だからといって防災用品とは。

 担当営業は雄聖が多かった。
 胸に苦い物が込み上げる。
 ただ事務作業をしているときは、人好きのする人はお年寄りにも人気があるのだな、と思っていた。
 督促の電話をしていると、気弱なお年寄りに強引に営業したのではと疑いが湧いてくる。

 舞奈は伝票整理などの仕事も香蓮にふるようになった。
 空いた時間で、彼女はのんびりとスマホを眺めている。
 舞奈の脅迫じみたメールは、紅美佳には言えなかった。
 彼女はきっと警察に言われてもいいじゃん、と言うだろう。はっきりさせたほうがいい、と。

 だが、香蓮はそれが怖い。澄玲に迷惑をかけたくない。
 せめて、文化祭が終わってから。
 そう思って、舞奈の要求を呑んだ。
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