身代わりから始まる恋 〜白い悪魔の正体は甘くて優しい白馬の王子!?〜
会議室から廊下に出ると、営業から戻った雄聖がフロアにいるのが見えた。ほかの営業の男性と話をしている。
「兎山さんとつきあってるんだろ? お前の好みじゃないだろ」
営業が出した話題のせいで、香蓮はフロアに入れなくなってしまった。
「金ためこんでそうだったからさあ。だけどケチでぜんぜん出さねーんだよ。いつも割り勘。俺がつきあってやってるんだから奢れっての。やらせてもくれなくてさ。つまんねー女!」
香蓮は愕然とした。雄聖がそんなことを思っていたなんて。
「本人が聞いたらショックだぞ」
営業の笑い声に、香蓮はずるずると座り込んだ。一緒に笑う雄星の声が頭の中でこだまのように響いて離れない。
「こんなところで座るな。体調が悪いなら帰れ」
その背に、会議室を出て来た直斗の冷たい声が降って来る。
「あ!」
雄聖たちが香蓮に気が付き、さっとばらける。
のろのろと立ち上がる香蓮を見て、舞奈がにやにやと笑っている。
「課長、最低です! 体調が悪い人に対する言葉じゃありません」
他部署に行っていた紅美佳が戻って来ていた。直斗の発言だけが聞こえたらしい。
「紅美佳、大丈夫だから」
「大丈夫じゃない」
血の気の多い紅美佳はうなるように課長を睨む。
「話があるなら聞くぞ」
めんどくさそうに課長が言い、会議室のドアを開ける。
「聞いてもらおうじゃないの」
紅美佳は鼻息荒く、課長とともに会議室に入って行った。