身代わりから始まる恋  〜白い悪魔の正体は甘くて優しい白馬の王子!?〜
「香蓮」
「澄玲くん……」
 澄玲はつかつかと香蓮に歩み寄る。
「近寄るな!」
 雄聖が威嚇するが、澄玲は一瞥しただけで香蓮に向かう。

「メッセージ、どういうこと? ブロックされてたから来ちゃったけど」
 香蓮はどう答えたら良いのかわからず、悲しく彼を見つめる。
 本当のことを言いたい。だけど、言えば雄聖がどういう行動に出るのかわからない。
 ただ見つめるだけでわかってくれたらいいのに。

「お前はふられたんだよ。こいつは俺とよりを戻したんだ」
 雄聖が得意げにいい、香蓮の肩を抱く。香蓮はすぐに振りほどいた。
「そうは見えないけどな」
 澄玲にじろりと見られて雄聖はたじろぐ。が、すぐに澄玲をにらみ返す。
「仕事、大丈夫なの?」
 香蓮が聞く。

「大丈夫じゃなかったら来てない。君には悪いが、仕事を放棄してまで来ることはできない」
 そうだよね、と香蓮はうつむく。彼の一番は、警察の仕事……つまりは市民の安全を守ることだ。

 同時に愛おしさが胸にわく。
 彼の迷いのない信念。だからこそ、警察官を続けてほしい。
 香蓮は覚悟を決めた。

「私、あなたとはもう会わない」
 顔を上げ、にこっと笑って見せた。頬が少しひきつったが、気にしないことにした。

 目が潤むのは悲しみのせいじゃない。パソコンの画面を見過ぎて目が疲れているから。

 私なんて気にしないで、あなたの道を進んで。心の中で、そう告げる。それが伝わるように、ただ澄玲を見つめる。
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