身代わりから始まる恋  〜白い悪魔の正体は甘くて優しい白馬の王子!?〜
 身代わりになったのに、と雄聖がこぼしていたから、香蓮を脅した。
 悔しそうな姿に、ざまあみろと思った。
 彼の代わりに香蓮を成敗したつもりだった。雄聖もそうしてほしくて愚痴をこぼしたのだろうから。

 なのにまた雄聖が香蓮にちょっかいを出している。
 香蓮が雄聖を誘惑しているに違いない。
 あんな地味で魅力のない香蓮にどうして雄聖もあのイケメンも夢中になるのか。自分のほうが女としては格上なのに。いや、地味だからこそ男は騙されるのか。

 こんなこと、許せるはずがない。
 舞奈はスマホをとると電話を始めた。
 相手は最寄りの警察署。
 香蓮の不正を通報してやるつもりだった。

***

 交通機動隊の主な仕事は交通取り締まりや事故処理だ。殺人事件などが起きても基本的には出動はない。時として要人警護やマラソンの先導などもあるが、今のところ澄玲がそれを担当したことはなかった。

 パトロールを終えて分駐所に戻った澄玲は、ため息をついた。
 昨日の香蓮の様子が気になっていた。もう会わない、とは言われたが、彼女の本心ではなさそうだった。
「疲れてるな」
 同僚が声をかけてくる。

「ちょっとな」
「今度のデモ走行、大丈夫そうか?」
「それはきっちりやるさ」
 澄玲ははっきり答える。任されたからには、やり遂げる。

「さすが白葉小隊長」
 彼は笑うように言った。
 小隊長は階級でいうと警部補だ。

 警察は階級に厳しいが、年功序列もあるし、先輩後輩の関係も厳しい。組織に先に入った人が偉いという意識も強い。
 同期の彼は、気安く話せる数少ない仲間だった。

「おい、白葉」
 声をかけられて振り向くと、中隊長がいた。
 澄玲と同僚はすかさず姿勢を正す。
「お前が検挙した違反で所轄署にクレームが入った。詳しく聞かせてもらおうか」
 中隊長の言葉に、澄玲は顔をしかめた。
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